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でかリュックの女

更新日:2022年6月9日



 いったい何が入っているのかと思わせる黒くでかいリュックを、マナー通りに前担ぎして若い女が電車に乗ってきた。  JR駅で朝、人身事故があったらしい。阪神電車はJRからに移ってきた通勤客でものすごい混雑である。不思議なことに女の隣、さらにその隣の男も黒いでかリュック。そろって前担ぎのマナーを守っている。兄弟じゃあるまいし、三人も同じスタイルが並ぶのは珍しい。

 本来、阪神電車じゃこんなにマナーがよろしくない。車内が混んでいても何食わぬ顔で背中に担いでいる。到着駅で乗り降りするとき、車内を移動するとき、ぶつかる。それでも平気。しらんぷりでスマホ画面に熱中している。

 面白いのはどんなにぶつかられても嫌な顔をしないことだ。ぶつかられて当然。ぶつかられても仕方がないと思っているのだろう。だから、そんなやつがいたら思い切りぶつかってやる。どうせ相手も謝らないからこちらも謝る必要はない。阪神電車ではリュックにぶつかられることも、ぶつかられることも当然の文化がなりたっている。

 ところが、JRでは違うらしい。ぶつかられることも、ぶつかることも当たり前ではない。だから、みなマナーを守って前担ぎをしているのだ。たいした文化の違いである。

 そんなことはともかく、でかリュックの女は丸々と太り、白い半袖シャツに黒のパンツ。黒髪を無造作なポニーテールにして20歳そこそこなのに化粧っけもない。ここまで徹底しておしゃれ感覚がないのはどんな人種なのだろうかと思っていたら、幼児保育の教科書を広げて読み始めた。

 保育士を目指して勉強中の学生だった。すべての構成要素が収まるところに収まってつまらなくなり、人間観察の興味が失せた。

 女子学生さん、しっかり勉強して保育士になってください。きっとその業界も人手不足だから。

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