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かっこいいダサ男

更新日:2020年9月23日



白いハンチングにピタッとした白い中綿ジャンパー、擦り切れたスリムなジーンズ、やや汚れたブーツ。細身の体は引き締まっていて中年のわりに精悍な雰囲気が漂う。ハンチングの下からはみ出したモジャモジャカールの銀髪が粋だ。


日に焼けたかっこいい男はぎゅうぎゅう詰の電車の中でしきりにスマホを触っていた。身動きとれないほど混雑した帰りの通勤電車でどうしてそんなに熱心にスマホをいじる必要が、と何の気なしに画面に目をやると、ゲームに熱中していたわけでもSNSでやり取りしていたわけでもない。情報検索だった。


感動で涙が止まらない曲

懐かしさで心がいっぱいになる曲

歌えるとかっこいい曲


これから酒を飲みに行って二次会でカラオケを歌ってカッコよさをアピールするのだ。

誰に。

若い女に決まっているだろう。何を言っているんだ君は。カラオケでかっこよさをアピールするのは女にもてるための常套手段だということを知らないのか。


そのために上手に歌えるかっこいいナンバーをいくつも仕込んでおくのさ。若い女が感心する最新ヒットナンバー、若い女がじんとする少し古い名曲、若い女が思わず体を動かすダンス系の曲、洋楽のヒット曲を滑らかな英語で歌えれば鬼に金棒だ。


カラオケは俺のメーンステージなのだ。次、歌ってくださいよお、と若い女に言われたらうーんと言いながら、さっと選曲する。


飲み会の顔ぶれによって選曲は変えなければならない。歌う順番もだ。若い女が多いからといっていきなりの最新ヒットはいただけない。若者に迎合しようとしていると思わられ、軽んじられる。最初が肝心なのだ。


俺の作戦はこうだ。

まず誰もが知っている古いニューミュージック系のミディアムテンポの名曲をじっくり歌う。それは絶対に得意な曲でなくてはならない。最初からハズすようなことになってはおしまいだ。これで若い女の心はグッとこっちに向いてくる。


次は最新のヒットナンバーだ。若い女は驚き、うまくいけば尊敬のまなざしで見てくれる。


そしてまた、グッと古い昭和の曲に戻る。このときは、笑いを誘ってもいい。


次に順番が回ってきたら、いよいよデュエットだ。もうここまできたら若い女のハートは俺のもの。最後にみんなで歌える名曲を選んで全参加者で盛り上がる。


最高だ。俺って素晴らしい。料金も任せておけ。本当に俺って素晴らしい。














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