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第一章 やくも
和子は岡山駅で伯備線特急やくもに飛び乗った。目的地の備中高梁までわずかな行程である。車中で自由席を探したが、どこにもない。知らない間に全席指定に変わっていた。 4両しかない車両の2両目に空席を見つけると(空席だらけではあるが)、真ん中に近い窓際に決めた。上着を脱いで座った途端、どこかで見ていたかのように車掌がやってきた。 「お客さま、切符をお持ちでないですね。申し訳ありませんが、購入いただけますでしょうか」 嫌です、と言えるはずがない。財布からクレジットカードを取り出し差し出した。車掌は慣れた手つきで決済し、ハンディ券売機からにょろにょっと出てきた切符をやぶり和子に手渡した。 「到着駅では、窓口のある改札をお通りください。自動改札機には入りませんので」 当たり前でしょ、そんなことするバカなんていないわよ。そう思いながら「はい、わかりました」と答えてペラペラの指定席券を財布に納めた。 車窓から見える風景は30年前と何も変わらない。山があり川があり舗装道路があり、田畑もある。ときどき現れる民家も昔と変わらないように見えるが、傷んだところを修理しながら

作家 龍村暁
11月8日読了時間: 2分


ふてぶてしいインド娘
美形というより、可愛い系のインド娘である。通勤電車に乗り、長い座席の端っこで一心不乱にスマホをいじっている。スマホで顔の半分が隠れていても充分分かるほどの美人だ。 インド人らしい小麦色の肌に真っ直ぐな黒髪。ヨード卵のようなツルッとした小顔にパッチリした目、形の良い小ぶりの鼻...

作家 龍村暁
2023年9月1日読了時間: 2分


私、ニホンジンと言い張る女
握りこぶしほどの大きさしかない顔に長すぎる手足、栄養失調寸前のような細さで超ミニスカートをはいている。立ったり座ったりするたびに、ずり上がったミニスカートを引っ張り下ろす動作が面倒くさそうだ。 色白で顔の造作からするとアジア人、それも日本、中国、韓国、台湾のどれかである...

作家 龍村暁
2018年8月27日読了時間: 2分


wikileasの女
wikileas。wikileaksからkが抜いてある。そんなロゴのリュックを背負った女は中国人である。 20歳代前半、痩せていて、黒縁の丸っこいメガネに黒髪のショートヘアー。前面によくわからん英語がデカデカとプリントされたTシャツ、紺色花柄のミニスカート。白いスポーツ...

作家 龍村暁
2018年8月14日読了時間: 2分


いつも上機嫌な外国人女
電車の車内アナウンスは事務的なものだが、もしあいそたっぷりだったら、と思ったことはないだろうか。そんなアナウンスなんかありえないとの声が聞こえてきそうだが、実在する。 神戸市中心部と北部を結ぶ神戸電鉄の車内放送だ。日本語に続いて英語のアナウンスが流される。英語のアナウン...

作家 龍村暁
2018年8月10日読了時間: 2分


骨董品屋のインテリおやじ
細面の顔に鼻ヒゲ、黒縁めがね。チリチリした長めの銀髪をきっちり後ろになでつけ、長めのもみあげでバランスを取っている。歳は70過ぎと見た。 「自分なりの格好よさをずっと追求してきたのじゃよ、わしは」そんな心の声が聞こえてくる。骨董品屋の主人に違いない。...

作家 龍村暁
2018年8月2日読了時間: 1分


東京に出て60年の男
「わしは東京に出てきてもう60年。わしの経験のひとさじでもお前らに飲ませてやりたい。そうすればわしが経験した苦労の1%いや0.1%だけでも理解できるだろう。このそば屋でお前らのような若僧といっしょに昼飯を食うなんて思っても見なかった。それだけわしは苦労に苦労を重ねてきた。...

作家 龍村暁
2018年7月30日読了時間: 4分
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