通勤電車の中で週刊マガジンを読んでいるおじいさんがいた。ほとんど真っ白な短髪にマスク。カーキ色の綿パン、黒革のウォーキングシューズ、フード付きの黒いダウンジャケットという格好だ。老眼鏡もかけずに顔の間近で一心不乱に読みふけっている。
じいさんがマンガ。一見、違和感があるが、実は不思議ではない。マンガは若年層だけのものではなく、あの麻生太郎だってマンガ好きというからファンに年齢層は問われないのだ。
それより見かけた男性を「おじいさん」と呼ぶのはいいが、たぶん還暦を少し過ぎたくらいだろう。今年還暦を迎えた自分と同世代だ。その世代がマンガ好きなのはまったく不思議ではない。
自分だって幼稚園から小学校までマガジン、サンデー、キング、ジャンプ、チャンピオンとさまざまなマンガ雑誌を読んでいた。当時、マンガ雑誌は子供らの間で大人気だった。
「マンガじゃなくて本を読みなさい」と親から口酸っぱく言われたが、そんなの無視してマンガばかり読んでいた。近所の貸本屋さんに新刊を借りに行ってまず兄が読み、終わったら自分にまわってくる。一週間以内に返さないといけないから、読みきれないこともあった。よく覚えていないが、一回借りるのに十円、高くても何十円だったと思う。
あの時代は大人は本を読み、マンガを読むのは子供だけという線引きがあった。そのうえ、大人の間には「マンガばかり読んでいたら知能の発達が遅れる」という心配もあった。だから「本を読め」と子供にうるさく言っていたのだろう。
小学校高学年のころ兄が読んでいたSF小説を借りて読み、そっちに関心が移ってマンガは読まなくなったが、還暦を迎えるまでずっと読み続けた人だっているだろう。きっとたくさんいるに違いない。
60歳になっても70歳になっても80歳になっても、視力がなくならない限り読み続けるおじいいさん、おばあさんがこれからどんどん増えるだろう。
マンガを読みふけるおじいさんにほんの少しでも違和感を覚えた自分が恥ずかしい。
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